コラム

目視検査の判定ばらつきと良否基準の整理

この記事の要点

  • 良品の画像から学ぶ方式なら不良品が少なくても検討できるが、狙った不良を見つけられるかは不良が写った画像で確かめる
  • 学習用と評価用の画像は分けて管理し、同じ現物を撮った画像が両方に混ざらないようにする
  • 不良は名前だけでまとめず見え方の違いを書き出し、良品側のロット差や判断に迷う境界サンプルも用意する
  • 手持ちの写真は相談の出発点になるが、正式な学習や評価には予定する撮影条件に合わせた画像を使う
  • 現物が残っていない不良は「未収集」と明記し、今後の回収方法と評価の進め方を相談して決める

目視検査で人によって判定が違うときは、判断が分かれた現物や画像を集め、良否の境界と判定理由を社内で確認するところから始めます。AI外観検査は、人工知能を使って製品の画像から傷などの異常を判定する仕組みです。AIを評価する際にも、何を正解とするかを決めておく必要があります。

VISION WORKSは、愛知県一宮市に本社を置く株式会社シーディアイのカメラソリューションブランドです。 検査工程を任されている方に向けて、良否基準の整理からAIの評価へ引き継ぐまでの進め方を紹介します。今の基準書に書き足せる内容を、現場の見本と一緒に確認してみてください。

判定の違いを確認する最初の作業

最初に確認したいのは、同じ対象を同じ条件で見ても判定が分かれるかどうかです。作業者ごとの経験差と決めつけず、検査する面や観察する時間、照明の当たり方をそろえて確認します。たとえば金属面の薄い傷を傾けたときだけ確認できるなら、見る角度の違いも切り分ける必要があります。

会議の場ですぐに意見を合わせるより、各担当者が一度個別に判定し、その理由を記録する方法を勧めます。誰が間違えたかを探すためではありません。傷の長さを重く見る人と、使うときに目立つ場所かを重く見る人がいれば、基準書に不足している説明を具体的に探せるからです。

AIの学習に向けて画像に良品や不良品などの正解を付ける作業を、ラベル付けと呼びます。Cognexの公式資料では、画像の間だけでなく、ラベルを付ける人の間で判断が一貫していることを重視しています。 判断が割れた画像をそのまま別々の正解で渡す前に、どこで意見が分かれたかを残しておきましょう。

良否基準と限度見本のそろえ方

良否基準には、不良の名前に加えて、検査する場所と許容できる状態を記します。限度見本とは、良品と不良品の境界を確認するための見本です。文章で説明しにくい傷や色ムラは、見本と判定理由を対応させておくと、別の担当者が確認するときにも説明できます。

たとえば樹脂部品の傷を扱うなら、長さだけで良否を決めているか、幅や位置も条件に含めているかを確認します。同じ長さの傷でも、外から見える面と組み立て後に見えない面で扱いが異なるなら、その違いを明記します。既存の顧客仕様や図面に条件がある場合は、社内見本と矛盾していないかも確認してください。

表1 判定が分かれる見本に添える記録

確認項目残しておきたい内容
対象の識別品番、見本番号、検査する面や位置
不良の状態傷や汚れの種類、確認できる大きさや濃さ
判定と理由担当者ごとの良否と、その判断に使った条件
確認待ちの内容不足している基準、確認先、暫定的な扱い

明らかな良品と不良品だけで見本をそろえると、境界の扱いが残ります。ぎりぎり良品とするもの、そのすぐ外側で不良とするものを並べて確認しましょう。現物が変色や摩耗を起こす可能性があるなら、保管方法と見直し時期も決めます。写真だけを使う場合は、撮影条件や表示する画面の違いにも注意が必要です。

すべてを数値に置き換えようとして手が止まることもあります。数値化できる項目は測定し、外観の印象が残る項目は承認済みの見本と説明を併用します。キーエンスも、目視検査では対象を限度見本と比較して良否を判定すると説明しています。 まずは現在の判断を他の人に説明できる形へ整えることを目標にしましょう。

判断が割れた見本を使った社内合意

判断が割れた見本は、品質の判断を承認できる担当者を交えて扱いを決めます。多数決だけで決めると、顧客と合意した品質条件が抜けるおそれがあります。品質管理部門が既存仕様との関係を確認し、製造部門は検査工程で実際に確認できるかを持ち寄る進め方が考えられます。

合意できない見本には、保留の状態と確認先を付けます。取引先への確認が必要なら、その回答を待つ対象として区別してください。良品に混ぜる、不良品に寄せる、といった暫定処置をする場合も、理由と対象範囲を記録します。未決着の見本をAIの正解として固定すると、後から評価結果を読み直す手間が増えます。

図1 判定が分かれる見本から基準を整える進め方

決まった内容は、見本番号、承認した人、適用日と一緒に基準書へ反映します。以前と判定が変わる対象があれば、検査担当者へ共有し、保存済み画像の正解も確認しましょう。基準の変更とAIの性能変化を混同しないために、どの版の基準で判定した画像かを追える状態にしておくと役立ちます。

社内で話し合う項目をそろえたい方は、AI外観検査事前チェックシートを使えます。10問で検査対象や良否基準、今の困りごとと目標を整理でき、Q4が良否基準、Q9とQ10が困りごとと目標の確認欄です。空欄や不明が残っていても利用できます。[9] 打ち合わせ前の共通のメモとして、分かる範囲から記入してください。

社内の基準を画像へ引き継ぐ方法

AIへ引き継ぐときは、承認した基準を画像の正解に反映します。良品と不良品の分類に加え、傷の位置を囲む必要があるかなど、必要なラベルの形式は採用する方法によって異なります。Cognexの資料でも、画像を分類する方法と、不良部分の範囲を指定する方法を分けて説明しています。[2] 最初に依頼先と付け方を合わせましょう。

良品として許容する見え方も伝えます。たとえば成形由来の模様を良品と扱うなら、その模様を含む画像と、承認した理由を一緒に準備します。不良画像についても、どの箇所を理由に不良としたのかが分かるようにします。基準書の言葉と画像の番号をつなげると、ラベルを見直す際に確認先を探しやすくなります。

画像を大量に分担して整理する前に、少量の同じ画像へ複数の担当者が正解を付け、食い違いを確認する方法を勧めます。現物では合意できても、画像上では薄い傷が確認できないことがあります。その場合は保留理由を残し、基準の説明不足か、撮影した画像の不足かを確認します。

AIの評価で確認する見逃しと過検出

AIの評価には、学習に使う画像と分けた評価用画像を用意し、同じ良否基準で正解を付けます。Cognexは、評価用画像を学習に含めず、学習用と同じ方法でラベルを付けると説明しています。 MVTecも、テスト用の画像群を使って学習済みの仕組みを評価する手順を公開しています。

結果を確認するときは、全体の正解割合だけで判断しないようにします。不良品を良品として通すことが見逃し、良品を不良品として扱うことが過検出です。Cognexの公式資料でも、ある評価指標が高くても別の指標が低ければ見逃しが多くなり得ると説明しています。 どの不良を何件見逃したか、どの良品を止めたかを個別に確認してください。

表2 評価結果と一緒に確認する内容

評価する対象確認内容社内で決める扱い
承認済みの不良品種類別の見逃しと対象画像出荷への影響、追加検査の要否
承認済みの良品過検出と対象画像再確認作業の担当と負担
境界付近の見本合意した判定との食い違い基準と画像を再確認
判定を保留した対象保留理由と確認状況評価対象に含める時期

評価する画像の内訳も残します。良品ばかりの画像群と、境界付近の見本を多く含む画像群では、同じ数値を単純に比較できません。品番別や不良種類別の件数を確認し、少ない対象は評価が十分かを依頼先と検討します。判定が分かれた見本は、合意後も評価用の確認項目として残すと、変更後の比較に使えます。

見逃しをどこまで許容するか、再確認する作業をどれだけ受け持てるかは、品質管理責任者と工程管理者が検討する内容です。装置側の設定を調整する前に、求める運用を依頼先へ伝えましょう。基準を変える場合は、変更した見本と正解をそろえて再評価し、以前の結果と条件が違うことを明記します。

VISION WORKSへの相談で用意したいもの

相談時には、現在の基準書と見本に加え、判断が割れた対象、その理由、未決着の項目を用意すると話を進めやすくなります。すべてを解決してから相談する必要はありません。社内で決まっている部分と、撮影や検証を通じて確認したい部分を区別して伝えてください。

VISION WORKSでは、AIと、寸法などの条件を設定して判定するルールベースを組み合わせた外観検査に対応し、前後工程の自動化設備まで自社で開発、製造しています。 導入までの流れでは、光学機器の選定と検証、初期の性能評価、本番ラインでの運用検証を段階的に行います。 対象の基準を共有したうえで、検証で何を確かめるかを相談できます。

よくある質問

Q1 良否基準が完全に決まっていなくても相談できますか

未決着の部分を明示すれば、相談の準備は進められます。ただし、その画像を性能評価の正解に使うには扱いの確認が必要です。現行の基準と、判断が分かれる見本を分けて用意してください。

Q2 熟練者の判断をそのまま正解にしてよいですか

熟練者には判定理由も確認しましょう。顧客仕様や社内基準との整合を品質部門が確認し、承認した判断を使います。特定の人だけが説明できる状態を残すと、別の担当者が画像を整理するときに迷いが生じます。

Q3 境界付近の見本は学習から外したほうがよいですか

一律には決められません。まず社内で扱いが決まっているかを確認します。承認済みの見本をどのように学習や評価へ使うかは、検査方式と検証計画に合わせて依頼先と決めてください。

Q4 見逃しを抑えれば過検出は問題ありませんか

良品の再確認や廃棄が増えると工程へ影響します。見逃しの確認と併せて、過検出した製品の扱いも決めましょう。必要な検査品質と、再確認する人員や時間を一緒に検討する必要があります。

Q5 基準書を改訂したら画像も直しますか

変更に関係する画像の正解を確認します。改訂前後の画像や評価結果を混ぜず、適用した基準の版を記録してください。AIへ追加学習を行うか、評価をやり直すかも、変更範囲に応じて確認します。

Q6 チェックシートだけで導入できるか分かりますか

結果はAI、ルールベース、まず撮像テストのいずれを検討するかの目安です。導入可否の判定ではありません。撮像テストとは対象を撮影し、検査に必要な違いが画像で確認できるかを調べる作業です。[9]

まとめ

目視検査の判定差を整理するときは、判断が割れた見本と理由を残し、社内で承認した良否基準へ反映します。その基準を画像の正解と評価へ引き継ぐことで、AIの判定と現場の判断が食い違ったときにも、どこを確認するかを決めやすくなります。

次の打ち合わせでは、まず良否基準が明確な部分と、確認が必要な部分を持ち寄ってみてください。AI外観検査事前チェックシートは、検査対象から目標までを10問で整理できる資料です。分からない欄は空欄のまま使えます。 現場と品質部門、相談先で話す内容をそろえる準備にお役立てください。